「不可能!おれはそれを世界の涯てまで探しにいった。」(※1)小栗旬さん、菅田将暉さんなど、そうそうたる俳優陣が狂気の暴君を演じ、観る人に強烈なインパクトを残す舞台「カリギュラ」。実際のローマ皇帝を題材にした戯曲は一体どんなお話なのでしょうか。

実在の第3代ローマ皇帝を基にした名作

戯曲『カリギュラ』は、西暦12年から41年までに実在した第3代ローマ皇帝ガイウス・カエサルがモチーフ。コロナ禍で再注目された小説『ペスト』でも有名なアルベール・カミュによって、第二次世界大戦時下に書かれました。物語は、ローマ帝国の若き皇帝・カリギュラが最愛の妹・ドリュジラを亡くし行方不明になる場面から始まります。再び側近や貴族たちの前に姿を現したカリギュラは狂気の暴君へと変貌。全市民の財産相続権の剥奪や、無差別殺人を繰り返すように。

母性のような愛情で暴君を支える女性・セゾニア、元奴隷の忠臣・エリコン、若き詩人のシピオン、才気あふれる貴族・ケレア…それぞれの思惑が渦巻きながら、カリギュラは破滅へと向かっていきます。

カミュが描く人間の不条理

作者であるカミュはジャーナリストでもあり、人間の不条理を追求していました。カミュにとって不条理とは「理性では割り切れない世界とそれを理性で理解しようとする人間との亀裂のうちに存在している」としています。(※2)

今回の戯曲でもカリギュラが、人々に恐怖を与えること(=理性で割り切れないこと)で1人1人に人生や生きる意味を考えることを強要する場面が多数登場します。その言葉は、分かりやすいものが肯定され、不可解なものは排除されやすい現代社会にも通じる、強烈なアンチテーゼにもなっているように思います。

おむ
おむ

観劇後、登場人物や物語の意味を考えさせ、簡単な解釈を寄せ付けないところがカミュの作品の魅力だと感じます。なので、ぜひ2回以上観てみてください。最初はカリギュラの狂気に圧倒されるかと思います。その後、各登場人物のセリフに耳を傾けると、カリギュラは本当に”ただの残酷な独裁者”だったのか?と、カミュが伝えたかった物語の真理がみえてくるかもしれません。
(※1:アルベール・カミュ(2008)『カリギュラ』岩切正一郎訳, 早川書房 ※2:アルベール・カミュ(1969)『シーシュポスの神話』清水徹訳, 新潮社 参考:ホリプロ企画制作(2019)『カリギュラ』(劇場パンフレット)