設立から30年を超える京都の老舗劇団「MONO」。コロナ禍という辛い時代だからこそ「甘い物語」をやりたかったという最新作は、時代劇なのに共感できる、心にそっと寄り添うやさしい群像劇でした。(2021年3月・あうるすぽっと)

時代劇で描くダイバーシティ

江戸時代初期、朱印船貿易の交易先であったシャムロ(シャム。現代のタイ)。その地のアユタヤという街の日本町を舞台に、さまざまな身分や出自から来る差別や分断が描かれます。

日本から来た日本人、シャムロ生まれの日本人、ハーフ、シャム人。バックボーンの異なる人々の何気ない会話から、立場や主義主張の違いがじんわりと浮き上がってくる、MONOの十八番の構成です。

遠く離れた異国でさえ士農工商を引きずり、露骨な差別意識を持つ日本人。片やシャムロではよそ者である日本人への締め付けの厳しさ。ダイバーシティという言葉はない時代、登場人物たちは互いにぶつかりながら、それでも少しずつ本音を語り、過ちを認め、歩み寄っていきます。そんな中、江戸幕府の鎖国を知り…。

「生きるための拠り所を作りたい」

現代社会の問題をあぶり出すかのような設定ながら、刺々しくならないのは、ベテラン陣を中心としたアンサンブルから生まれるやわらかな空気感。辛い毎日を送りながらも健気に生きる、市井の人々へのやさしい眼差しが伝わってきます。

作・演出の土田英生さん(俳優としても半沢直樹の悪役などで活躍)は、今回「生きるための拠り所を作りたい」とごあいさつ文で語っていました。ラストシーンでは、長く対立してきた登場人物たちが手を取り合い、新天地へ旅立つハッピーエンドを迎えます。「こんな時代だからこそ甘い物語を」という想いにあふれ、コロナ禍の中でも観に来てくれた観客へのエールのようで、思わず胸が熱くなりました。

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Shinpei

『アユタヤ』は3月21日(日)までアーカイブ配信されています。ご興味のある方はMONO公式HPをご確認ください。