小倉百人一首ならぬ「沙翁百人一句」をご存知でしょうか。上野政詞さんという方が長い年月をかけて1人で作り上げた、シェイクスピアの登場人物100人の台詞のかるたです。そのたゆまぬ努力の上に完成したかるたにまつわるストーリーを、今日はご紹介します。

01 「沙翁百人一句」とは…「一首」ではないワケ

「沙翁百人一句」とは、シェイクスピア劇に登場する人物の台詞を小倉百人一首のように上の句と下の句に分けた、いわばシェイクスピア版・百人一首です。

例えば有名な『ロミオとジュリエット』のジュリエットの台詞であれば「O Romeo, Romeo! (ああロミオ、ロミオ)」を上の句、「wherefore art thou Romeo?(どうしてあなたはロミオなの)」を下の句とします。取り札には下の句だけが載っているので、読み上げられた上の句とセットになる下の句を探して取ります。一番多く取った人が優勝です。

小倉百人一首は和歌なので“一首”ですが、劇の台詞からとったので“一句”としたそう。沙翁とはシェイクスピアの漢字表記です。

02 そうだ、かるたにしよう。

このかるたを作った上野さんは、中学で英語を教えていた2006年、教科書にある一文を見つけました。それが“A park or parking area; that is a question.(公園か駐輪場か、それが問題だ)”というもの。これを見て『ハムレット』の”To be, or not to be; That is a question.”のもじりだとわかる人はどれだけいるでしょう。まして中学生であればなおさらです。

上野さんもこの文を機に、シェイクスピアに馴染みのない生徒たちにその英語と教養を身近なものにしてほしいと考え、数あるシェイクスピア劇の中から50個の台詞を選びぬき、厚紙で「沙翁五十人一句」を作りました。

するとこれが大盛り上がり。隣のクラスからうるさいと苦情が来るほど。英語どころか勉強ぎらいの生徒でさえ、定期試験に絶対出ない英語の台詞を、勝つために50個覚えてしまったそうです。そしてある生徒が「先生、どうせなら小倉百人一首みたいに100個にしようよ。50個なんてすぐ覚えてしまったよ。」と言い出しました。それを受けて上野さんは意を決して全集を購入し、100の台詞を選び抜き、「沙翁百人一句」の原型が出来上がりました。

その後上野さんは一人で100人分の登場人物全ての絵を描き、さらに100個の台詞それぞれの背景を載せた解説書をも作り上げ、これまでに貯めたボーナスをはたいてついに現在の「沙翁百人一句」が完成しました。2016年3月、着想から10年もの年月が経っていました。

TsujiYuka
Yuka

上野さんの今の野望は、教鞭を執った名古屋の子どもたちが「名古屋の子はシェイクスピアの台詞をいっぱい言えるよ。だってかるたで覚えちゃうもん。」と言われ、この地が文化の都となること。そして、このかるたが日本中、世界中に普及し、「沙翁百人一句世界大会」を開催することだそう。読み札・取り札ともに原文の英語も日本語も両方載っているので、海外の子どもも日本の子どもも一緒になって取ることが出来ますね。 絵札の肖像画一枚一枚に、百句全ての詳細な説明が載った解説書に、上野さんの子供たちへの愛情、そしてシェイクスピアへの深い情熱を感じられます。人生の折々に思い出されるフレーズは、あなたの人生を豊かにしてくれることでしょう。興味を持たれた方は、百人一句堂HPをご覧ください。