“永遠の青春神話”とも言われる『ウエスト・サイド・ストーリー』。「トゥナイト」「マンボ」「マリア」「アメリカ」などの名曲に彩られたこのミュージカルは、初演から50年以上が経った今も、世界中で広く愛されています。そして実はこのストーリーは、シェイクスピアのあの名作を元にして作られたものなんです!

ブロードウェイ版『ロミオとジュリエット』の誕生

舞台は、1950年代後半のニューヨーク。移民や低所得者たちの町「ウエストサイド」では若者たちが縄張り争いに明け暮れていた。

欧州系移民のギャング「ジェット」のリーダーであるリフは、プエルトリコ系移民のギャング「シャークス」のリーダーであるベルナルドにダンスパーティーで決闘を申し込む。

そこで、リフの盟友であるトニーと、ベルナルドの妹マリアは出会い、一目で恋に落ちる。秘密の逢瀬で愛を確かめ合った2人は、決闘を止めようとするも、時すでに遅し。ベルナルドの手によってトニーの目の前で親友リフは殺されてしまう。親友の死に逆上したトニーはナイフを片手にベルナルドへと向き直り……?

さて、このストーリー、どこかで見たことはありませんか?実は、この作品が作られるとき「シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』をブロードウェイで舞台化する」という前提で脚本家や演出家、作曲家たちに声がかかったそうです。

しかもこの話が持ち上がったのは1949年でしたが、舞台の初演は1957年。構成に約8年という歳月がかけられており、途方もないエネルギーが注がれた作品なのです!

『ウエスト・サイド・ストーリー』でマリアが死なない理由とは?

ただ、『ウエスト・サイド・ストーリー』は『ロミオとジュリエット』と完全に同じストーリーを辿るわけではありません。原作ではロミオもジュリエットも死んでしまうのに対し、本作品ではトニーは命を落とすものの、マリアは生き延びます。ではなぜマリアは生きる道を選んだのでしょうか。それには、この作品が描かれた時代が大きく関係しているように思います。

『ウエスト・サイド・ストーリー』の舞台であり、本作が初演された1950年代のアメリカは、人種差別が色濃く残っていた時代。街では実際に移民との抗争もあったことでしょう。

そんな中で公開された本作品は、当時の観客にとって決して他人事ではなかったはず。“社会のせいでトニーは死んだ”とマリアが生きて訴えることで、この物語がまだ解決していないことを暗示しているように思います。ただの舞台上の絵空事ではなく、これは現実の問題なのだと観客に思い起こさせているのではないでしょうか。

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他に原作から改訂された部分として、『ウエスト・サイド・ストーリー』ではジェットに入団したいと希望する女性が描かれています。ラストシーンのマリアの主張と合わせて、個人的には女性の強さを描いているとも読みたいところです。
また、本作品は2021年にスティーブン・スピルバーグ監督のもと、2度目の映画化が予定されています。オリジナルの映画版でベルナルドの恋人アニタを演じたリタ・モレノも出演するようで、期待が高まりますね!